の端に来たのを見て、その驚いて茫然としているのに呼びかけた。
「こっちに来たまえ。君ね、馬に乗って出来るだけ大急ぎで、これをファーナムまで持って行ってくれたまえ」
 彼はノートの紙をとって、ちょっと何か書きつけた。
「これを警察署の監督官に渡してくれ。それから彼が来るまでは、私が諸君を監視するから、――」
 ホームズの強い、よく訓練された性格は、こうした悲劇の場面をしっかり支配してしまって、いずれも彼の把握の中に収められてしまった。ウィリアムソンとカラザースは、負傷したウードレーを家の中に運び入れ、私はまた、ただ恐怖におののいている娘さんを、支えてやった。その負傷した男は、ベットの上に横にされたが、私はホームズに頼まれたので、彼を診察した。そして私はその報告書を綴織の掛っている食堂に居る、ホームズのところに持って行った。彼の前には彼があずかっている、二人の罪人も居た。
「あの者は助かるだろう」
 私は云った。
「何ですって?」
 カラザースは、椅子から飛び上りながら叫んだ。
「私は二階に行って、あいつに止めを刺して来ましょう。あなたはあの女が、あの天使が、あの吼えつくようなジャック・ウードレーのために生涯しばりつけられるのだと仰るのですか?」
「いやそれはもう君のかかわったことではない」
 ホームズは云った。
「ここにあの女の方が、彼の妻になることのない立派な理由が二つあるんだ。まず第一に、ウィリアムソン君の、結婚式の執行権について追求すると、これにまず我々は、安心が出来るのだ」
「私は僧職は授けられていますよ」
 この老悪漢は叫んだ。
「そしてまた、その僧職は、剥脱されているだろう」
「一度牧師になった者は、いつまでも牧師ですよ」
「そんな馬鹿なことはない。では免許証はどうした?」
「私たちは結婚の免許証は貰い受けました。それはポケットにあります」
「それじゃ君は、詐欺をしてそれを手に入れたんだ。しかしとにかくこれは、強制結婚じゃないか、――強制結婚は結婚ではないよ。それどころか大変な重罪だよ。そのことはいずれ君にもじきにわかるよ。まあ僕にして誤《あやま》ちなしとすれば、君がこのことをよく考えてみるために、この後十年以上もの年月が、君のために与えられるだろう。それからカラザース君だが、君はピストルは出さん方がよかったね」
「いやホームズさん、今僕はそれを後悔してお
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