全体がぬらされたものだとすると、無論そんな紙ははがれてなくちゃならないさ。そこで、君は腰かけていて、火に足をさし出していたんだと云うことになったんだけれど、この六月なんて云う暖い季候に、いかにスリッパが湿ったからと云って、普通の健康体の人間なら火に足をかざすなんてことはしっこないからね」
ホームズの推理はすべて、いったん説明されると、いかにも単純そのもののように見えてしまう。彼は私の顔色をうかがってから、微苦笑した。
「僕はどうも思うように説明出来ないので困るんだよ」
と彼は云った。
「原因の分らない結果と云う奴のほうが、実際深く印象されるからね。――それはそうと、君はバーミングハムへ来てくれられるんだね?」
「無論行くとも。――どんな事件なんだい?」
「汽車の中で話すよ。――この事件の依頼人が表の四輪馬車の中にいるから。すぐいかれるかい?」
「ああ、すぐ」
私はすぐ隣に[#「隣に」は底本では「隣の」]住んでいる男に手紙を書いた。そして二階へ駈け上って、妻に理由を話し、入口の敷居の上に立っていたホームズと一しょになった。
「お隣さんって云うのは、お医者さんかい?」
と、彼は隣の
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