君は最近風邪をひいたらしいね。――夏の風邪って云う奴はどうもいかんね」
「先週三日ばかり、馬鹿に寒気がしてね、家に閉じこめられちまったよ。けれどもうすっかりいいつもりなんだ」
「そうらしいね。丈夫そうに見えるよ」
「けれど、どうして僕が最近風邪をひいたって云うことが分かったんだい?」
「君は、いつもの僕のやり方を知ってるじゃないか」
「じゃ、やっぱり推定したんだね」
「無論さ」
「じゃ、何から?」
「君のスリッパから……」
私は自分の穿いている護謨革《ごむがわ》の新しいスリッパを見下ろした。
「だが、一体どうして――?」
私は云いかけた。がホームズは私が云い終らないうちに、私の質問に答えてくれた。
「君のスリッパは新しいんだろう」
と彼は云った。
「君はそれをまだ二三週間以上は穿いてないよ。それだのに、今、君が僕のほうにむけているそのスリッパの底は、どこか焦げたような色に変色しているんだ。そこで僕は考えたんだ。このスリッパは湿ったに違いない。そして乾かす時に焦がされたんだ、とね。――ところがそのかがとのほうに、何か商店のマークのようなものが書いてある丸い紙が貼られてるだろう。もし
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