うに思わせてしまったのです。しかし不幸なことに、金の入れ歯で、あなたに疑いを起されたのです」
ホール・ピイクロフトは拳を空中に振り上げた。
「有難いぞ!」
彼は叫んだ。
「私がこんな馬鹿を見ている間に、もう一人のホール・ピイクロフトはモウソンの事務所で働いていたんだ! ホームズさん、私たちはどうしましょう。どうか話して下さい」
「モウソンの所へ手紙をやるのですね」
「土曜日は十二時に店をしめちまうんです」
「大丈夫です、誰か門番かでなければ留守番がいるでしょう――」
「ええいます。――いろんな株券だとか保証金だとかがありますから、いつも番人がおいてあります。そんなことをちょっと耳にしてたように記憶してます」
「好都合だ。モウソンに手紙をやりましょう。そして変り事はないか、またあなたの名前を使ってる事務員がそこで働いているかどうかきき合せましょう。それでこの事はハッキリします。けれどハッキリしないのは、なぜこの悪漢が、私たちを見た瞬間部屋から逃げ出していって、首をくくったかと云うことです」
「新聞」
私たちの後ろで声がした。その男は真蒼な顔をして薄気味悪い顔をして起き上っていた。彼
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