。――第二の点と云うのは、あなたに辞表を出させないで、しかも有望なこの堂々たる商売の支配人と云う地位をそのまま手もふれずに残させるようにした、ピナーの要求です。ピナーから云えば、その支配人と云う地位は、彼が会ったこともない、ホール・ピイクロフトと云う人間が、月曜日の朝から来ることになっていたのです」
「ああ神様よ」
私たちの事務員は叫んだ。
「私は何と云う盲目野郎だったんだろう!」
「これであなたは、その手跡のことを想像してごらんなさい。何者かがあなたの代りになって、あなたがとっておいた就職口に行くのです。無論、たくらみはうまく行くでしょう。その男はあなたとは似てもつかない字をかくのです。しかしその悪漢は、ひまひまにあなたの字の真似を習います。そしてそのために彼の位置は安全になります。少くもその事務所に誰一人、前にあなたを見たものがいないかぎりは」
「畜生め!」
ホール・ピイクロフトは呻《うめ》いた。
「まったくですよ。――もちろん、あなたに、あなたが得た就職口をよく思わせないようにすることが、非常に大切なことだったんです。それからまた、あなたが誰か、モウソン事務所であなたの名をか
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