きとうございます。――労働過度にならないように。夕方二時間ばかりミュジック・ホールへいらっしゃるのは、一日働いたあとに害にはなりませんよ」
 彼はそう云って笑いました。その時私は、彼の左側のほうの、金で不体裁に詰めてある二番目の歯を見てギクッとしました」
 シャーロック・ホームズは喜んで彼の手をこすった。私は喫驚《びっくり》して私達のお客を見詰めた。
「ワトソンさん、あなたは大変お驚きになったようですが、それはこう云うわけなんです」
 私たちのお客は話し続けた。
「今、ロンドンで会ったもう一人の男のことを申上げましたが、その時、私がモウソンの店へ行くことはやめようと云いますと、その男は喜んで笑ったのですが、その笑った時に私はこれとそっくりのやり方で詰められている彼の歯を見たんです。あなたもお分かりになるように、その時も今度の時も、金の光りが私の眼を捕えたのです。――そこで私は以上のことの上に、声と様子とが同じであると云うことと、そして剃刀《かみそり》と仮髪《かつら》とさえあれば人間の顔貌《がんぼう》は変えられると云うことを考え合せると、私はその二人が同じ人間であると疑わざるを得なかった
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