ちゃいけませんよ、ピイクロフトさん」
 と、私のこの新しい知り合いは、私の顔の上から下まで見下ろしながら云うのでした。
「ローマは一日で築き上げられませんよ。――事務所は貧弱でも、私たちは背後にたくさんお金は持ってますから、――まあ、おかけなさい。そして持ってらした手紙を見せて下さい」
 私は彼に手紙をやりました。彼はそれを大変|叮嚀《ていねい》に読みました。
「あなたはよほど深く私の兄弟を感心させたと見えますな」
 彼は申しました。
「だが、私の兄弟は本当に鋭い批判家です。――私の兄弟はあなたとロンドンでお約束をしたんで、私はバーミングハムでするわけなんですが、しかし今度は、彼の云う通りに従いましょう。――では、どうぞそのおつもりで、お願いします」
「私の仕事はどんなことなんでしょう?」
 私はききました。
「つまり、フランスにある百三十四軒の代理店へ、英国製の器具を送り出す所のパリの本店を支配して下さればいいんですよ。取引きの約束は一週間のうちにきまりますから、その間あなたはバーミングハムにいて下すって、あなたの仕事をしていて下さればいいんです」
「と云いますと、どんなことをしたら
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