いよ」と、こう云う彼の云い草なんですよ」
「失敬な奴だな」
 私は叫びました。
「もう生涯あいつん所へは行くものか。どんな点から云ったって、何故《なにゆえ》私は彼に気兼ねをしなくちゃならないでしょう。――私は何も云ってやりますまい。あなたがそうすることに賛成して下さるなら」
「賛成! じゃ、お約束しましたよ」
 彼は椅子から立ち上りながら云いました。
「本当に、私は私の兄弟のためにあなたのような有為な人を得られて喜んでいます。――これは俸給の前払いの百|磅《ポンド》です。それからこれは手紙です。向うの所番地をお書とめになって下さい。コーポレーション街一二六番地。それから明日の一時までにいらっして下さる[#「下さる」は底本では「下る」]ことをお忘れにならないように――。じゃおいとまします。万事うまくおやりになるように」
 これがその時、私たちの間に起きたことの、ほとんどそのままなんです。私はごく最近のことなんではっきり覚えているんです。――ワトソンさん、私がその素敵な幸運に出会って、どんなに喜んだかは、想像していただけるでしょう。私はその夜嬉しく夜中すぎまで起きてました。そしてその翌日、
前へ 次へ
全43ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三上 於菟吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング