すね、ピナーさん」
と、私たちの事務員は叫んだ。
「ええ、あまりよくはありません」
と、その男は彼のからだを動かすのにいかにも大儀そうにしながら、何かものを云う前にはかわいた唇をなめずりながら、答えた。
「あなたが連れて来たその方たちはどなたですか?」
「一人はハリス君と云ってバーモンドセイのもので、もう一人のほうはプライス君と云うこの町のものです」
私たちの事務員はすらすらと答えた。
「みんな私の友人で、経験もある者たちなんですが、しばらく失業してるんです。そんなわけで、もしかしたらあなたに、会社の空席へ雇っていただけはしないだろうか、と二人は希望してるわけなんです」
「幾らでも出来るとも!」
と、ピナー氏は気味悪い笑いを浮べて叫んだ。
「よござんす。確かに、何かあなたがたのためにお計らい出来ると思います。――ハリスさん、あなたの御専問はなんです?」
「私は会計師でございます」
ホームズは云った。
「ああ、なるほど。私たちはそんな方も何か入要でしょう。それからあなた。プライスさんは?」
「事務員です」
私は答えた。
「私はやがて、会社があなたがたのお世話が出来るようになるだろうと思っております。で、何か私たちが決定しましたらすぐ、あなたがたの所へお知らせ致しましょう。ですから、ただいまの所はお引取り願いたいと思います。どうか、私を一人きりにさせて下さい」
この最後の言葉は、まるで彼の上にのしかかっていた圧迫を、急に全くはねのけたかのように、激しい勢いで彼の口からとび出した。ホームズと私とはお互いに顔を見合った。と、ホール・ピイクロフトは一歩テエブルのほうへ近寄っていった。
「ピナーさん、あなた、お忘れになっては。――御命令で、何か御指図をうけたまわりに参ったのですが」
彼は云った。
「大丈夫だよ、ピイクロフト君、大丈夫だよ」
おだやかな口調で答えた。
「ちょっとここで待ってくれたまえ。別になぜってことはないけれど、あなたのお友達があなたを待ってると云うわけにも行かないでしょうから。三分間であなたにお願いすることをまとめましょう。それだけの間、御迷惑でも御辛抱していて下されば……」
彼は叮嚀な様子をして立ち上った。そして私たちに挨拶しながら、部屋の向うの端にある出入口から出て、あとをしめていってしまった。
「どうしたって云うんです?」
ホームズ
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