、これがあなたの俸給より多くなることは受合いです」
「けれど私は鉄器類のことについては何も知りませんよ」
「しようがないな、君は。――形は分かるでしょう」
私の頭の中は騒然として、私は静かに椅子に腰かけていられなくなりました。けれど、ふとかすかな疑いが、私におこりました。
「ざっくばらんに申上げますが……」
と私は云いました。
「モウソンは私に二百|磅《ポンド》くれるだけです。けれどモウソンのほうは確かなんです。が、真実の所、私はあなたの会社についてはほとんど知らないのですからね、――」
「ああ、あなたは実にきびきびしている!」
と、彼は喜びで夢中になっているような調子で叫びました。
「あなたは私たちがほしいと思ってた通りの方です。それ以上おっしゃらなくても、ちゃんと分かっています。さあ、ここに百|磅《ポンド》の小切手があります。――もしあなたが私達の仕事をしようとお思いになったら、これを給料の前渡し分としてお納めになって下さい」
「分かりました。大変結構なお話です」
私は申しました。
「で、いつから私は仕事にかかったらいいんでしょう?」
「すぐに明日、バーミングハムへいってもらいたいんです」
と、彼は云いました。
「ポケットの中へ、私は手紙を持って来てますから、それを私の兄弟の所へ持って行って下さい。コーポレーション街一二六番地ですから、分かります。そこに会社の仮事務所があるんです。――もちろん、あなたとのお約束は彼が確実に取きめてくれるでしょうが、しかし私たちの間にはちゃんと話がしてあるんですから……」
「本当に、私は、あなたにどう云ってお礼を申上げたらいいか分かりません。ピナーさん」
私は申しました。
「そんなお礼なんかなさることはありませんよ。君。あなたはただあなたが当然受くべきものを受けたにすぎないんですもの。――だが、ちょっとしといていただかなければならない、――単なる形式なんですが、――つまらないことが一つ二つあるんです。そこへ紙を一枚お出しになって下さいませんか。そしてすみませんが、「最低俸給五百|磅《ポンド》にて、フランス中部鉄器株式会社営業支配人として働くことに同意致し候」と、お書きになって下さい」
私は彼の云う通りにしました。そして彼はその紙をポケットの中へしまい込みました。
「それからもう一つ精《くわ》しくおききしたいのは、あな
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