どいた。――ハナレヤニハマダタレカイル。レイノカオ、マドニアラワル。七ジノキシヤデオイデマツ。ゴトウチヤクマデシゴトニカカラヌ。――と、それには書いてあった。
 私たちはすぐ出かけた。そして汽車から降りると、彼はプラットフォームで待っていた。停車場《ていしゃじょう》の明かりで、彼が非常に蒼ざめて、興奮の余りブルブル震えていることが分かった。
「奴等はまだいるんです。ホームズさん」
 と彼は、私の友達の袖をかたくつかみながら云った。
「私がいった時、例の離れ家に明りがついているのを見ました。すぐいって、ひと思いにすっかり解決しちまいましょう」
「あなたはどうしたらいいと思いますか」
 とホームズは、暗い並木道《なみきみち》を下《お》りながら云った。
「私はあの家《いえ》の中へ這入って行って、あそこに住んでいた奴を、見つけ出してやろうと思います。無論ご一しょに行って下さるでしょうね」
「あなたは、あなたの奥さんの、この秘密をあばき出さない方がよいと云う忠告を無視しても、そうしようと決心したんですか?」
「ええ、私は断然やります」
「結構です。当然だと思います。不安な疑いは明らかにするに限りますよ。――すぐ出かけた方がいいでしょう。もちろん、法律的に云ったら人のうちへ無断で入ると云うことはよくない事です。しかし、やったっていいと思います」
 真暗《まっくら》な晩だった。そして広い道から狭い道へ曲った頃から雨が降り始めた。その狭い道には、轍《わだち》の跡が幾本も入り乱れて、深くついていた。けれども、グラント・マンロー氏は、もどかしそうに、ぐんぐん歩いて行った。そして私たちも、出来るだけ早く彼の後《あと》に従った。
「あそこに、私のうちの灯りが見えます」
 と彼は木の間に、ちらちらしている光りを指して云った。
「それから私たちが、目指している離れ家はこれです」
 彼はそう云いながら、細い道を一つ曲ると、私達のすぐ側に建物があらわれた。真暗《まっくら》な前庭《ぜんてい》を横切って、黄色いすじが、なげられていて、入口の扉がしっかりしめられていない事を物語っていた。そして二階の一つの窓には、あかあかと灯りがついていた。私達が見上げた時、私達は一つの黒い影が、そこを横切ったのを見た。
「あそこに、例の奴がいるんです」
 と、グラント・マンローが叫んだ。
「あなたもあそこに、誰がいるの
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