さあ、それでは、一つ室の中を徹底的に調べてみようじゃないですか」
書斎は小さな室であった。三方は書物を立て並べられ、書机《しょづくえ》は普通の窓に向って置かれ、そこから庭園は見渡されるのであった。まず我々は第一に、この不幸な田園紳士の死体を検べた。彼のがっかりした躯幹《くかん》は、室にさし渡しになって横たわっていた。着衣は大変乱れていたが、それはあるいは彼が眠ってるところから、飛び起きたのだろうと思われた。弾丸は前面から撃たれて、彼の心臓をやっつけたまま、体内に止まっていた。彼の死はたしかに即死で、しかももう苦痛さえも無いものであったろう。火薬の痕跡は、寝衣《ドレッシングガウン》にもまた手にもついてはいなかった。また田舎医師の言葉では、妻の方は顔には血がまみれていたが、しかし手には何にもついてはいなかったと云うことであった。
「手に何にもついていなくっては、何にもならない、――もっとももしついていたとすれば、もうそれで何もかも一目瞭然だけれど、――」
ホームズは云った。「しかしもっとも実弾がうまく装填されておれば、何発でも何の痕跡ものこさずに、撃つことも出来ることは出来るのだが、―
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