笛を吹いたり歌ったりし、またやがては、全くその長い謎に閉口してしまったように、額をすくめ目を茫然とさせていた。それから遂に彼は思わずも歓喜の声を上げながら起ち上って、盛んに手をもじもじさせながら室《へや》の中をぶらぶらと歩き出した。それから海底電信機式に、長い電報をかいた。
「もしこの返事が、僕の注文通りのものだったらワトソン君、――君の蒐集《しゅうしゅう》の中に、また実に素晴らしいものを加えることが出来るんだがね」
 彼は云った。
「明日は我々はノーフォークに行って、あの人間が苦しんでいる秘密事に、決定的な新な展開を与えることが出来そうだ」
 私はとても好奇心をそそられてしまった、しかしまた私は、彼はいつも自分の方から、いい時を見計らって話してくれることはよく知っているので、私の方から訊ねることはしなかった。
 しかしその返電はなかなか来なかった。ホームズはその間を、呼鈴に注意しながら、ヤキモキして待った。二日は空しく過ぎてしまった。しかしその二日目の夕方、やっとヒルトン・キューピットから、一通の手紙が来た。その手紙によれば、ヒルトン・キューピットの身辺は、その後は静穏であったが、しかしその朝、またまた、日時計の上に、長いものを画いたものが乗っていたので、その写しをとって送ってよこしたのであった。それは次のようなものであった。
[#図5入る]
 ホームズは数分間の間、――この奇怪な帯模様の絵に見入っていたが、突然、驚愕と困迷の声を上げて起ち上った。その顔は不安のために全く色を失っていた。
「これはうっかりしてしまったかもしれない!」
 彼は云った。
「今夜これから、北ワルシャムに行く汽車があるかね?」
 私は時間表をくってみた。ちょうど最終列車が出たばかりのところであった。
「じゃ仕方がない。――あしたの朝早く朝食をすまして、一番列車に乗ろう」
 ホームズは云った。
「俺たちは出来るだけ早くゆかなければならない。これがすなわち待ち設けた海底電信なのだ。ちょっとハドソン夫人、また返事がいるかもしれませんが、――いやこれでよい、これでよい。この通信が手に入った以上は、いよいよ遅れてはならない。一時も早く、ヒルトン・キューピットに、この事を知らせてやらなければならない。これがすなわちあのノーフォークの先生を悩ましている、蜘蛛の網だからね」
 たしかに着々とその通りに進ん
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