この秘密を嗅ぎつけたようなことを云った時、私がひどく呼吸《いき》づまらせられた理由が分かるだろう。私はアーミテージと云う名でロンドンの銀行に這入っている時、国法を犯して罪せられ、流刑を云い渡されたことがあるのだ。可愛いいお前よ、私を余りひどい奴だと思わないでおくれ。それはいわゆる、私が支払わなければならない信用借金の問題だったのだ。私は私自身のものでないお金を使ったのだけれど、私は確かにそれを見つかる前に返しておけるはずだったから、それがなくなったなどと怪まれるようなことはないつもりだったのだ。ところが、実に恐ろしい不幸が私を見舞ったのだ。私の使ったお金は回収出来なかった。そして会計検査の結果、私の使い込んだ不足額は暴露されてしまった。がしかし事件は寛大に討議されたのだったけれど、今から三十年前の法律は、今日より遥かに惨刻《ざんこく》なもので、私は廿三《にじゅうさん》才の誕生日の日、重罪犯人として捕縛され、他の三十七人の罪人と一しょにグロリア・スコット号にのせられてオーストラリア[#「オーストラリア」は底本では「オーストリア」]に送られることになったのだ。
それはクリミヤ戦争が最高頂に
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