啖《くら》い、轢殺車は地響き立てながら地上を席捲する。
かくて、地上には無限に肥った一人の成人と、蒼空まで聳える轢殺車一台とが残るのか。
そうだろうか!
そうだとするとお前は困る。もう啖《くら》うべき赤ん坊がなくなったじゃないか。
だが、その前に、お前は年をとる。太り過ぎた轢殺車がお前の手に合わなくなる。お前が作った車、お前に奉仕した車が、終に、車までがおまえの意のままにはならなくなってしまうんだ。
だが、今は一切がお前のものだ。お前はまだ若い。英国を歩いていた時、ロシアを歩いていた時分は大分疲れていたように見えたが、海を渡って来てからは見違えたようだ。「ここ」には赤ん坊が無数にいる。安価な搾取材料は群れている。
サア! 巨人よ!
轢殺車を曵いて通れ! ここでは一切がお前を歓迎しているんだ。喜べこの上もない音楽の諧調――飢に泣く赤ん坊の声、砕ける肉の響き、流れる血潮のどよめき。
この上もない絵画の色――山の屍、川の血、砕けたる骨の浜辺。
彫塑の妙――生への執着の数万の、デッド、マスク!
宏壮なビルディングは空に向って声高らかに勝利を唄う。地下室の赤ん坊の墳墓は、窓か
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