ゐた。
 地下足袋を脱いで、私は飯場の蒲呉座の上に膝で上り、万福の枕頭ににじり寄つて見た。
 万福は眼を開けてゐて、さし寄せた私の顔を見てゐた。その眼は、迷ひ込んで来た小鳥の眼のやうに、元通り無邪気であつたが、何かにとまどひしてゐる風な表情があつた。
 が、その下ぶくれの可愛いい頬は、まるで病監にゐる囚人のやうに、痩せこけてしまつてゐた。六つの子供とは思はれないやうに、頬骨も顎の骨も、露骨に突き出てゐた。
 まだ六つの子供である、と云ふことを私は知り抜いてゐたが、眼の前にゐるこの子供の顔は、どうしても「子供の顔」とは思へなかつた。萎びてトゲトゲしてゐて、垢染みて、老人の、それも死に近い病人の顔に似てゐた。
 ――人間の顔と云ふものは、発育する途中では、旺盛な生命力を、目盛り見たいに表情の中に持つて居り、衰弱する場合には、死期までの目盛りを、その表情に持つてゐるものではあるまいか――
 と、フト、万福の顔を見てゐるうちに、私は考へた。
 私は万福の頭を、その為に殺したりなんかしては大変だと案じながら、静かに、静かに撫でた。
 その軟かい頭髪は、埃にまみれてゐて、私の労働に荒れた掌の、筋目
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