曲らんやうになつたですわい。それでもう、わしは半年遊んで弟の世話になつて食つとるんですが、そこへまた万福が怪我をしたちう訳です。弟は何も云ひませんよ。反つてニコニコして、わしや万福に心配させんやうにしとりますが、何しろあんた、弟とわしの家内とを合せると、十人の大世帯です。弟の稼ぎと、わしの傷害扶助の六十銭とぢやあ、どうしようもありません。だからわしは組に行つて、何とかしてくれと云ふんですが、組ぢやさつぱり受けつけませんのでな。弱つて居りますんぢや」
 私は、ポケットからバットを出して火をつけ、万福の父の前にその箱を差し出した。
「どうぞ。それから万福ちやんは?」
「ここに寝て居ります。先生にはわしが背負つて行くんですが、おとなしい子でしてなあ、痛いとも辛いとも云ひませんよ。ただ、黙つて寝とつてくれますんぢや。が、何にも食つてくれんので心配でならんのですが」
 さう云つて、投げ出した足を曳きずるやうにして、体をずらした。
 万福は入口の右側の板壁に添つて、横になつてゐるやうだつた。
 私は上つて万福の顔を見ようか、どうしようかと迷つた。傷口を見る。それは傷口は癒着してゐるかも知れない。「
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