ゃるしゃんとあそぼうね」
 子供は、吉田の首に噛りついたまま、おしゃるしゃんと遊ぶことを夢に見ながら、再び眠った。
(六時まで待とう。六時までにはきっと何かの情報があるだろう。依田が来るだろう。そうすれば、依田に顛末を知らす事が出来る、その上で行こう、六時にはピケッチングの交替になる時間なんだから、どうしてもそれまでは待たなければならない)
 中村は「困るなあ、困るなあ」と呟きながら、品物でも値切るように、クドクドと吉田を口説いた。
 吉田の老い衰えた母は、蝸牛《かたつむり》のように固くなって、耳に指で栓をして、息を殺していた。
 ひどい急坂を上る機関車のような、重苦しい骨の折れる時間が経った。
 毎朝、五時か五時半には必ず寄る事になっている依田は、六時になるに未だ来なかった。
 ――依田君。六時まで、三時から君を待ったが、来ないから、僕はM署へ持って行かれることにする。いずれは君にもお鉢が廻るんだろうが、兎に角警戒を要する。皆やられたんじゃ仕方がないからな。それから、こんな事は云えた義理ではないんだが、僕の留守の者たちの事も気にかかる。若し、出来ればおふくろや子供の面倒を見てやって貰
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