いで、「利」によつて緊縛されてゐる。
 兄弟よ。心に何の蟠りなく、利害の関係なく、人と人とが語り合ふ時、どんなにそれは柔和な、清い、平和な関係であらう。
 二人で或仕事を初めて、一人は出資者で一人は実際に当るとして仕事の利益が思はしくない時、出資者は日歩三銭の利を八釜しく云ふとすると、その二人は時にふれ折につけて共に酒を飲み、遊楽を共にしてゐても「日歩三銭」の処で行き詰つてしまふのである。
 そして仕事に当つてゐる者は苦し紛れに、局外者に泥を吐いて救助を求めることになるのである。
 兄弟よ。利を追つてはならぬ。利を追ふと、真実兄弟のために尽す人と、われ等の前に棒に縛りつけた肉を突き出す人とを、混同してしまふであらう。
 兄弟よ。私は私の持つてゐる思想の一通りを茲に略述して筆を擱くことにする。
 兄弟よ。われ等が望む処は、今資本家及其傀儡が行ひつつある、物質的栄華であつてはならぬ。それを望むは恥づべきことである。われ等の否定するものをわれ等が内心に於て望んでゐることは、全く唾棄すべきことである。
 若し物質的栄華を得ることが、われ等の希望する処であるならば、その事は望まないでも行はれてゐ
前へ 次へ
全13ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング