坑夫だって人間である以上、早仕舞いにして上りたいのは、他の連中と些も違いはなかった。
だが、掘鑿は急がれているのだ。期限までに仕上ると、会社から組には十万円、組から親方には三万円の賞与が出るのだ。仕上らないと罰金だ。
何しろ、ポムプへ引いてある動力線の電柱が、草見たいに撓《たわ》む程、風が雪と混って吹いた。
鼻と云わず口と云わず、出鱈目に雪が吹きつけた。
ブルッ、と手で顔を撫でると、全で凍傷の薬でも塗ったように、マシン油がベタベタ顔にくっついた。そのマシン油たるや、充分に運転しているジャックハムマーの、蝶バルブや、外部の鉄錆を溶け込ませているのであったから、それは全く、雪と墨と程のよい対照を為した。
印度人の小作りなのが揃って、唯灰色に荒れ狂うスクリーンの中で、鑿岩機を運転しているのであった。
ジャックハムマーも、ライナーも、十台の飛行機が低空飛行をでも為ているように、素晴らしい勢で圧搾空気を、※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルブから吹き出した。
コムプレッサーでは、ゲージは九十封度に昇っていた。だから、鑿岩機の能率は良かった。
「おい、早仕舞にしようじゃないか
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