その見廻りは小林がいつでも引き受けていた。が、此場合では小林はその役目を果す事は出来なかった。
 時間は、吹雪の夜そのもののように、冷酷に経った。余り帰りが遅くなるので、秋山の長屋でも、小林の長屋でも、チャンと一緒に食う筈になっている、待ち切れない夕食を愈々待ち切れなくなった、餓鬼たちが騒ぎ出した。
「そんなに云うんだったら、帳場に行ってチャンを連れて来い」
 と女房たちが子供に云った。
 小林と秋山の、どっちも十歳になる二人の男の児が、足袋跣足でかけ出した。
 仕事の済んでしまった後の工事場は、麗らかな春の日でも淋しいものだ。それが暗い吹雪の夜は、況して荒涼たる景色であった。
 二人の子供は、コムプレッサー、鍛冶場、変電所、見張り、修繕工場、などを見て歩いたが、その親たちは見当らなかった。
 深い谷底のような、掘鑿に四つの小さい眼が注がれた。坑夫の子供ではあっても、その中へは入る事が許されなかったし、又、許されたとしても、そこがどんなに危険であるかは、子供の心にも浸み込んでいた。
「穴ん中にゃいないや、捲上小屋にいるかも知れないよ」
 小林の子が、小さな心臓を何物とも知れぬ不安に
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