、でなければ、早くても帰らないんだ。このしけでは、いつまでも帰らないかもしれないのだ。大体あまり、船長も家を恋しがりすぎるのだ!
 「あああ、人間がいやになったわい」と西沢は、一番奥の彼の巣からうなった。
 「どうだ、種馬になったら」と、波田が混ぜっかえして、そのまま、死のような倦怠《けんたい》へと、一切は吸い込まれてしまった。船長は、その家へ帰ったが、負傷にうめいているボーイ長は箱の中に、荷造りされたように寝ていた。

     一六

 本船を離れた伝馬は、その航海に本船が経験した、より以上の難航であった。港口は、すぐそこのように見えた。けれども、小倉と三上との腕のさえにもかかわらず、まるで港口に近づこうとはしなかった。船長はじれ切っていた。
 「あの灯のあたりがおれの家だ」と、乗って二十分ぐらいの間は、思っていた。ところが、いつまでたっても港口が近づかなかった。しかし、まっ暗やみであったが、櫓《ろ》の音も、二人《ふたり》の鼻息もすさまじい風の音を破って彼にまでも聞こえるのであった。
 伝馬は、仙台《せんだい》沖の鰹舟《かつおぶね》で鍛え上げた三上がともを押して、小倉が日本海|隠岐
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