間からまでも受けがよくない――と、さびしそうに、ストキは考えた。
二
船のエンジンはフルスピードをかけていたが、風と浪とで速力がまるで出なかった。未明に出帆《しゅっぱん》したのに、夕方になってもまだ津軽《つがる》海峡沖を抜け切らなかった。
その夜、高等船員側では室蘭へ引きかえそうかとの相談も行なわれたが、それは実行されるには至らなかった。
水夫たちは、暴風雪がだんだん猛烈になって来るにつれて、その作業も平常とは趣を異《こと》にし初めた。船体は保険マーク以上に沈んでいるので、充分に抵抗的であって、波浪は一つも残らずデッキへと打ち上げた。そしてデッキは一面の海になってしまった。すくい込む水はなかなか小さな排水口から急には出て行かなかった。デッキには、ハッチの上を通るように、ライフライン(命綱)が張られた。いつデッキを通ろうと試みても、そこは外海と何ら異なるところはないからであった。
浪はその山と山との間に船をはさんでしまう。その谷になった部分が船のヘッドから胴体へ進む時、次の山の部分がヘッドに打ちあたる。鉄製のわが万寿丸も、この苦悶《くもん》には堪《た》えかねて、断末
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