トキは全く困ったことをさせるわい。見習いのけがとおれと、一体何の、……そりゃ関係はあるにしても、船長が一度いかんと言ったものをナア……おれは、第一寒くてやり切れないや」
 ボースンは、ストキの顔をせっぱ詰まって拝むようにながめ、そしてまた、船長にあわてて敬礼をした。
 船長は黙って行きすぎようとして、タラップの方へ歩みかけた。
 ストキはボースンを小っぴどくつついた。ボースンは目だけをパチパチさせて、口は固くつぐんでいた。それは一秒おそくてもいけなかった。続いて第二発目のストキの拳固《げんこ》がボースンの横っ腹へ飛んで来た。と同時に、
 「船長」と太い、低い、重々しい声がおさえつけるように、ストキの口から呼ばれた。
 そしてストキは、ボースンを打っちゃらかしたまま、船長が今おりてゆこうとするその前へつっ立った。
 「船長! 水夫見習いの安井|昇《のぼる》ってのが負傷したのは知ってますか、それが、今日《きょう》は病院へやってもらいたいといってるんです」
 「それがどうしたんだ」と船長は頭のさきから、足の爪先《つまさき》まで、ストキの長さを目で測量した。
 「上陸禁止にでもなっているのか、
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