し、藤原がオイルマン(油差し)に、水夫たちはこういう要求条件を出して戦う、戦線を共同してもらえれば、この上もない事だが、そうでなかったら応援をしてもらいたいと、いうことを申し込むことになった。しかし、それは、われわれの要求条件がチーフメーツの方へ持って行かれると、同時でなければなるまい。なぜかならば、それは、セーラーの方で計画実行しなければならなかったほど、セーラーによっては、緊密な要求だが、火夫の方では、ある者にとっては、そうでないかもしれないし、より一層われわれがおそれるのは、スパイだ。スパイに対しては、われわれは絶対に、気をつけねばならない。それはペストのバクテリヤよりもこわいんだから。スパイはいつでもいそうなところにいないことは、柳の下の鰌《どじょう》と同じことだから、なおさら、われわれは細心に注意しなければなるまい。だから、少し手おくれのようには思われるかもしれないが、明日《あす》の朝にした方が、よくはないか、それはどうしても、明日の朝でなければならない――という事も決定した。
 そして、今一つ重大なことが、決定された。それは、この要求提出を機会として、それが成功しようが失敗しようが、とにかく、要求を出したということにだけは、成功したわけなんだから、その記念として、われわれは海員組合――それがないならば作ろうし――へ加盟しようではないか。確か、それはごく最近生まれたように、おぼろげながら聞いた。それは、浜に帰った上で、早速《さっそく》調査して組合があれば、直ちに入会に決することになった。
 公傷病手当の規約については、直ちに実行するのは、もちろんであるが、ボーイ長の手当は、その新しく決定された規約によってなすこと、を忘れないように交渉すること、これも、その通りに決定した。
 彼らが、こうして、彼らの必要なる要求をするのに、何か、不都合ななすべからざる行為を企てでもしているように、彼ら、自身がまず、これを秘密にし、それが、ならない時は――という善後策をも考えねばならなかったことは、何を意味しているか。
 それが、何を意味していようが、私の知ったことじゃない。ただ、私は、彼らが、人間としてあたり前のことを最小限度に要求する時に当たって、いつでも、その企ては、慎重に秘密にされる習慣を知っている。だれでも、地獄に落ちたくはないのだ。だれが、人間をこんなに、コソコソ
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