らは、いつ浪《なみ》にさらわれるか、ウインチでやられるか、どこで、やられるかわからない危険な労働をしているのに、ボーイ長のように、負傷はさせっ放し、死ねば死にっ放し、というような状態では、とても不安心で、落ちついていられないんだ。それで、僕は、公務疾病、傷害手当規約を本船に作って、それでもって、扶助すべきだと思う。それを諸君に、計りたいんだが。そして、ただ、そんなものを作ってもらいたいと、いうのだけでは役に立たないものを作るだろうから、こっちで二人《ふたり》、向こうで一人《ひとり》の委員を出して、その委員会によって、扶助規則を作るということにしたら、どうだろうと思うのだがね」藤原は言った。
 「そりゃ、ぜひ必要なこった」西沢が言った。
 「しかし、規則の点だが、委員会で、おもての意志が、はたして貫徹するだろうか、僕は、その点に疑いを持つよ」波田が言った。
 「そうだ、だから、こちらから二人、向こうから一人と、いう割合にしといたんだがね」藤原が答えた。
 「そりゃ、形ではそうなるけれども、実際に、その委員会は、ともの一人のために、おもての二人が支配されることに、なりはしないだろうか? もし、おもての二人が、支配されまいためには、僕は単に、その条件のみについても、一度ストライクが、起こされやしないかと思うんだよ。そうなれば、それは、二重の手間をとることになるからね」波田が言った。
 「そうさなあ、それじゃ、どうすればいいんだろう」小倉が言った。
 「なるほどね。こっちからの委員は、木偶《でく》の坊《ぼう》も同じだからね」藤原も賛成した。
 「で、結局、どういうふうにすればいいだろう」
 「僕の考えでは、こっちで作ってしまって、向こうには、ただ、それを承認するか、しないかの二つの回答のうち一つを、選ばせるだけでいいと思うんだがね。でないと、何しろ出帆前のとっさの間に、決する勝敗だから、出帆後に持ち越せば、こちらの負けになるに決まってるんだからなあ。だから一切の条件は、それを承諾するか、しないかどちらかにのみ、決定のできるように、ハッキリしたものにして置いて、そして出帆間ぎわの致命傷を突くということが、一等よかないかと思うんだがね」波田の考えはこれだった。
 「そう、その方法はいいと思うね、今室蘭には、一人も、休んでるものはないそうだ。二、三日前まで休んでいた者が、二人ばか
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