、日本の資本主達が富んだのは! 労働者はその代わり過度労働ですっかり、からだをブチこわしてしまった!
 夕食は船ではとっくに済んだのに、昼ごろふさがってしまったハッチ口はまだ開かなかった。デッキの下では、――テーブルの下あたりでも、ボーイ長の寝箱の下あたりでも、あちこちで、ゴトゴトと、異様な響きが絶えず続いた。そして時々うなるような人声が聞こえた。そして、それらも七時を過ぎると、ようやく穴があいた。それは難治の腫《は》れ物が口を開いて膿《うみ》を出し切ったのと同じ喜びを人足たちに与えた。山の絶頂へでも登りついた人のように、彼らはショベルを杖《つえ》にして石炭を踏みしめて上《のぼ》って来た。
 そして、その例外に太い握り飯にありつくのであった。
 彼らはこうして、ダンブルの中で土蜂《どばち》のような作業に従って、窒息しそうな苦痛をなめている時に、その境涯をうらやんでいるものさえあった。
 それは高架桟橋上の労働者であった。それは船のマストと高さを競うほども高いのであるから、その風当たりのよいことは、送風機のパイプの中のようであった。
 彼らは、石炭車の底部にある蓋《ふた》をとる。石炭は桟橋へ作られた漏斗《じょうご》の上へ落ちる。そして、船のダンブルへドドッと雪崩《なだ》れ込むのである。彼らが労働する部分は皆鉄ででき上がっている。そして、その鉄は焼き鏝《ごて》のように、それに触れると肉を引んむいてしまう。彼らは帆布で作った大きな袋を足に「着て」いる。彼らはまた毛布と毛布との間に、綿や毛などを詰めた赤や灰色の仕事着を着ている。それは、彼らが、その目の回るような、過激な労働時間以外に着ている、唯一の防寒具である。彼らは、また、皆、鎮西八郎為朝《ちんぜいはちろうためとも》が、はめていただろうと思われるような、弓の手袋に似た革《かわ》手袋の中で、その手を泳がせている。
 北海道の寒風がりんごの皮を緻密《ちみつ》にし、その皮膚を赤く染めたように人足らも、その着物を厚くし、その頬《ほほ》を酒飲みの鼻の頭のようにしている。
 だが高速度鋼のカッターは、鋳物を、ナイフで大根でも削るように削る。と同様に北海道の寒風は、労働者たちから、その体温をどんどん奪ってしまう。桟橋の上で働いていることは、焔《ほのお》の中へ氷を置くのと反対な、しかし似合った作用をする。
 彼らは、その労働を終えた時、
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