ねあぐんだ冒険者が、金鉱でも発見したかのように、その喜び、その楽しみから、一歩も足を踏みはずしたくなかった。実際三上は、もし、ほんとうに三上を愛する女があったら、彼はその女のためにどんなことでも虚心平気にやってのけたに違いない。彼は、生まれてから、すぐにその生《うみ》の母親に死に分かれて、それっ切り、人間に愛があるということはおろか、子供に乳があるということすらも知らずに育ったのであった。彼はきわめて幼い時から、海べへ出て、漁夫の手伝いをした。そして自分の食う分は五つぐらいの時分から自分でかせいだ。そして彼は小学校へ行く代わりに鰹船《かつおぶね》で太平洋に乗り出した。沖を通っている、山のような船の中に「洋服」を着た人間が働いているのを見て、「自分も洋服を着て働きたい」というので、鰹船を捨てて、汽船乗りになったのであった。彼は、だれからも、ほんとに愛されたことのない人間であった。まただれもほんとに心から三上を愛する気にはなれないだろうと思えるほど、彼は異様にひねくれていた。そのくせ、彼は、「だれかがほんとにおれに親切にしてくれたら」と、どんな時間にでも思わぬことはないのであった。従って、彼は、西沢が女郎に愛されたという話を聞くと、きっと、彼はその女の名前をきき出して、次航海には、ソーッと一人《ひとり》で、「愛」とはどんなものかを探りに行くのであった。三上のこの心の秘密は、だれも知らなかった。であるから、彼は変態性欲者と、その真実の「愛」を求める原始的巡礼の状態を名づけられたのであった。で、彼は自分が、他にとって、決して真摯《しんし》な愛に相当しないことをさとって、自らもジョーカーとなったのである。
三上は小倉を盗み見しては飲み、かつ、その年増《としま》の女を捕えて悪ふざけしていた。が、小倉は黙って食っていた。小倉の相手の女はとりつき端《は》がなくて、困っていた。三上が便所に立って、相手の女も続いて案内に立ったあとで、小倉のそばにいた若い女は、「どうしてあんたはそんなに黙ってるの、何かおもしろくないことがあって? も一人の人はあんなにはしゃいでるじゃないの、それとも、もうあんたは眠いの?」とその膝《ひざ》にもたれながら小倉にきいた。
「あの男はね、かわいそうな男なんだよ。あの男の事を僕は心配してるんだ」と小倉は答えた。
「どうして、あの人がかわいそうなの。私ならあ
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