は「!」なし] ここでこのままへたばって眠った方が気がきいてらあ、畜生!」
 三上は、この時すこぶるおめでたい、がしかし実際的な、そして架空的な、とっぴな計画を立てていた。そして、その計画は、船長が「わかる」ようにしてくれれば、やらずに済むのであったが、もし、おれをだましでもしたら、かまわないから、やってやろうとした、復讐的な意味をも含んだところのものであった。
 三上はこう考えた。船長はおれをきっと女郎買いにやってくれるつもりに相異ない。船長だっておれが上陸ごとに女郎買いに行くのは、知ってるんだから、それに今夜は、あんなふうにいってたんだから、きっと「サンパンは纜《もや》っといて、泊まって明朝帰ればいい、サア」といって十円は出すだろう。そこで、小倉は女郎買いには行かないに違いないから、やつを宿屋か何かにほうり込んで置いて、それから……と彼はうっかり笑った。
 「もし、万が一、そのままうっちゃらかしてでも行きゃがったら、その時はきっとやってやるから」と、すごい目つきを、闇《やみ》に向かって光らせて「見せた」。
 三上は、変態性欲的というか、あるいは不飽性性欲的というか、または、彼の肉体が立派なように、従ってその性欲も、船員のような性的に不都合きわまる条件の下《もと》に置かれては、あらゆる機会を血眼《ちまなこ》でさがし、それをおぼれる者が、藁《わら》をつかむように、しっかりとつかむのであった。彼は、その原始的教養の持ち主として、また、その性欲に関する奇行の創造者として、船内における人気者であった。
 彼が、もしその執拗《しつよう》さを今少し制御することができたならば、彼の人気は、も少し深い意味におけるものになり得たはずであったが、何をいうにも、そのしつこさにはだれでも参ってしまった。そして、彼のこの特徴は、彼が遊郭に行く時に、最もよく発揮された。
 西沢は、三上と一緒によく遊びに上がったものだが、それは、いくら西沢が逃げても隠れても、三上があとから、付いて行くことに原因したことだった。そして、三上は、西沢の室の前に、腹ばいになって、西沢の寝物語をすっかり聞いたりなどするのであった。それは、何のためであるかはだれにもわからない。ただ、西沢は、「おれと一緒に上がった晩」こういったというのだ。つまり「西沢が相手の女に向かって、『お前はどうしてお女郎になるような身になったんだ
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