しまった。
一体こいつ等はどんな星の下に生れて、どんな廻《めぐ》り合せになっているのだ。だが、私は此事実を一人で自分の好きなように勝手に作り上げてしまっていたのだろうか。
倒れていた男はのろのろと起き上った。
「青二才|奴《め》! よくもやりやがったな。サア今度は覚悟を決めて来い」
「オイ、兄弟俺はお前と喧嘩《けんか》する気はないよ。俺は思い違いをしていたんだ。悪かったよ」
「何だ! 思い違いだと。糞面白《くそおもしろ》くもねえ。何を思い違えたんだい」
「お前等三人は俺を威《おど》かしてここへ連れて来ただろう。そしてこんな女を俺に見せただろう。お前たちは此女を玩具《おもちゃ》にした挙句《あげく》、未《ま》だこの女から搾《しぼ》ろうとしてるんだと思ったんだ。死ぬが死ぬまで搾る太い奴等だと思ったんだ」
「まあいいや。それは思い違いと言うもんだ」と、その男は風船玉の萎《しぼ》む時のように、張りを弛《ゆる》めた。
「だが、何だってお前たちは、この女を素裸《すっぱだか》でこんな所に転がしとくんだい。それに又何だって見世物になんぞするんだい」と云い度《た》かった。奴等は女の云う所に依れば、悪いんじゃないんだが、それにしてもこんな事は明《あきらか》に必要以上のことだ。
――こいつ等は一体いつまでこんなことを続けるんだろう――と私は思った。
私はいくらか自省する余裕が出来て来た。すると非常に熱さを感じ始めた。吐く息が、そのまま固まりになってすぐ次の息に吸い込まれるような、胸の悪い蒸《む》し暑さであった。嘔吐物《おうとぶつ》の臭気と、癌腫《がんしゅ》らしい分泌物《ぶんぴぶつ》との臭気は相変らず鼻を衝《つ》いた。体がいやにだるくて堪えられなかった。私は今までの異常な出来事に心を使いすぎたのだろう。何だか口をきくのも、此上何やかを見聞きするのも憶却《おっくう》になって来た。どこにでも横になってグッスリ眠りたくなった。
「どれ、兎《と》に角《かく》、帰ることにしようか、オイ、俺はもう帰るぜ」
私は、いつの間にか女の足下の方へ腰を、下していたことを忌々《いまいま》しく感じながら、立ち上った。
「おめえたちゃ、皆、ここに一緒に棲《す》んでいるのかい」
私は半分扉の外に出ながら振りかえって訊《き》いた。
「そうよ。ここがおいらの根城なんだからな」男が、ブッキラ棒に答えた。
私はその
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