讚の念を抱くやうになつたのである。
だもんだから、近所隣で井戸を掘り下げると、そこで最初はおとなしく見物してゐるが、水気を含んだ土が出て来、土混りの赤又は黒の水が出るに及んでは、子供心に冷静を失つてしまふのである。
自分の家の井戸の底には、埃が溜つてゐる事も何も忘れ去つて、泥んこの水の中を、四つん匍ひになつて匍ひ廻り、こねまはして、「水が飲みたあい」と怒鳴りながら帰つた時は、おふくろが、洗濯を思ひ出さざるを得ない、悪鬼羅刹の形相に化し終つてゐるのである。
そこで、子等は柄杓に一杯又は二杯の生ぬるい水を、一息に呷つた後で、尻をペタ/\と叩かれるのである。
おふくろの方では、水を飲ませといてから殴るのであるから、充分に思ひやりのある処置と信じてゐるのだらうが、殴られる子供の側になつて考へると、何のために、母親が自分を殴るのか、見当がつかないものだから、その抗議として、死にもの狂ひに、あらん限りの悲鳴を上げるのである。新たに実施された児童虐待防止法案に、引つかゝる程にも泣き喚くのである。
これは子供が悪いのでは無い。母親が悪い。母親よりも家主が悪い。家主よりも税制がよくないのである
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