ち、菜の花や水仙などを摘んで丘の裾《すそ》を繞《めぐ》りながら、遠くに部原《へばら》の海を見下ろす崖の上へ出た。白っぽい県道が緑の間を抜けて、木橋の上へ出る。ちょうどその下が鉄道線路になって、十数間先に第二のトンネルがあった。と見ると、トンネルの入口に筵《むしろ》が敷いてあって、数人の男がその傍に立っている。
「轢死人《れきしにん》だな」
伊東はすぐ行ってみる気になった。もっともそれは帰り道だったせいもあろうが、彼は道のない枯草を分けて、遮二無二に橋の上へ辷《すべ》り下りた。
ちょうどそこへ自動車が停《と》まって、慌ただしく二人の男女が降りてきた。
「あら、旦那《だんな》さまですの、大変なことができましたんですよ」
と、女が言った。
「大変って、あれですか?」
伊東は下のトンネルの入口を指した。
「ああ、あれですの? いやになってしまいますね。兄貴が昨夜《ゆうべ》、飛び込んだのですって。持ち物にも名前があったし、それに顔を知っている者があったので、いましがた知らせを受けて飛んできたのです。本当に死んでまでも人騒がせをして、他人《ひと》さまにご厄介をかけるなんて、なんていうことで
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