まったく幸運てやつは向こうからぶつかってくるものだよ」
 と呟《つぶや》いた。
 彼は部屋の中を見回して、あれこれとめぼしいものを物色しながら、三年前に行った上海の賑《にぎ》やかな新世界|界隈《かいわい》を思い浮かべていた。
 海保はうるさく付き纏う情婦の百合江《ゆりえ》を殺してしまった。そして、その死体を完全に処分してしまった――少なくとも彼はそう思っていた――。それから、かねがね目をつけていた波瑠子の宝石をやすやすと手に入れることができた。彼は世の中は案外甘いものだと、心の底で赤い舌を出した。



底本:「清風荘事件 他8編」春陽文庫、春陽堂書店
   1995(平成7)年7月10日初版発行
入力:大野晋
校正:ちはる
2001年4月30日公開
2006年4月14日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全20ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
松本 泰 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング