わけで彼がどこの何者であるか知る術《すべ》もなく、死骸は身元不明者として領事館の手で仮埋葬に付された。
それから三日ばかりの間にわたしは日に幾回となく並山に電話をかけて、不幸な青年について調べたが、ついにその謎《なぞ》が解けないうちにわたしは日本に向かう○○丸の客となってしまった。
わたしの船室にはわたし宛《あ》てに十数個の小包が届いていた。なかには、一度ぐらいより会ったことのないような人からまで記念品を贈られていた。わたしはだれから何を贈られたのかいちいち調べるのも面倒なので、そのままそれらの贈物は鞄《かばん》に納めておいた。
穏やかな航海が続いた。わたしには新しい友達が沢山できた。毎日甲板ゴルフ、運動会、夜の舞踏会などと慌ただしく、華やかな十四日の旅が終わった。そして、わたしの心を傷つけていた青年の記憶もいつか薄らいでいた。
東京郊外の家へ落ち着いたわたしは、初めて鞄の中に投げ込まれていた数々の小包を開いた。
チョコレート入りの切子ガラスは、活動俳優老S氏からわたしの妻に宛ててあった。銀の灰皿は妹から、古風な短刀はメキシコの小説家から、その他珍しいものや美しいものが順々に
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