う》でやられてしまいます」
「では、そんな危険な家を出てしまって、シカゴなりニューヨークなり安全な土地へ逃げたらどうです」
「夫婦で逃げるなんていうことはとうていできません。わたし一人逃げたら、あとに残った妻の運命はその日のうちに決まってしまいます。……お願いです、なんとかしてわたしどもを助けていただくことはできないでしょうか?」
「よろしい、わたしにできるだけのことをしましょう。それには、充分にきみの話を聞かなくてはならない」
 わたしはその時、全身に少年のころの向こう見ずな血が湧《わ》き起こってくるのを覚えた。
 鳥打帽の日本人が来るのをその場で便々と待つまでもなく、こっちから進んでいって相手に直面しようとわたしは考えた。
「ありがとう存じます。詳しい話を聞いていただかなければなりませんが、あの男たちに油断をさせるために、いまはここをお別れしておくほうが好都合なのです」
 と、青年は訴えるように言った。
「分かった、わたしはP街の柳ホテルに泊まっている川瀬《かわせ》という者だから、きみの都合のいいときにいつでもやって来たまえ」
「では、今晩九時に伺わせていただきましょう」
 わたし
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