の紐の色は赤か青か白か黒か、もしまた紫ならば同じ濃さか同じ古さか、それらも聞きたくなきにはあらねど作者の意はさる形の上にあらずして結ぶといふ処にあるべく、この文筥は固《もと》より恋人の文を封じ来れる者と見るべければ野暮評は切りあげて、ただ我らの如き色気なき者にはこの痴なる処を十分に味ひ得ざる事を白状すべし。一つ気になる事は結ばれたるかたかたの紐はよけれど、それがために他のかたかたの紐の解かれたるは縁喜《えんぎ》悪きにあらずや。売卜《ばいぼく》先生をして聞かしめば「この縁談初め善く末わろし狐が川を渉《わた》りて尾を濡らすといふかたちなり」などいはねば善いがと思ふ。[#地から2字上げ](四月一日)
『明星』所載落合氏の歌
[#ここから2字下げ]
君が母はやがてわれにも母なるよ御手《みて》とることを許させたまへ
[#ここで字下げ終わり]
男女のなからひか義兄弟の交りかいづれとも分らねど今の世に義兄弟といふやうな野暮もあるまじく、ここは男女の中なる事疑ひなし。男女の中とした処で、この歌は男より女に向ひていへる者か女より男に向ひていへる者か分らず。昔ならばやさしき女の言葉とも見るべけれど今の
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