字|抔《など》を目《ま》のあたり示して※[#「入/王」、63−12]※[#「内」の「人」に代えて「入」、63−12]吉などの字の必ずしも入にあらず必ずしも士にあらざる事を説明せり。かく専門的の攻撃に遇《あ》ひては余ら『康熙字典《こうきじてん》』位を標準とせし素人先生はその可否の判断すら為しかねて今は口をつぐむより外なきに至りたり。なほ誤字につきて記する所あらんとせしが何となくおぢ気つきたれば最早知つた風の学者ぶりは一切為さざるべし。
 漢字の研究は日本文法の研究の如く時代により人により異同変遷あるを以て多少の困難を免れず。『説文』により古碑の文字により比較考証してその正否を研究するは面白き一種の学問ならんもそは専門家の事にして普通の人の能《よ》くする所にあらず。普通の人が楷書の標準として見んはやはり『康熙字典』にて十分ならん。ただ余が先に余り些細なる事を誤謬《ごびゅう》といひし故にこの攻撃も出で来しなればそれらは取り消すべし。されど甲の字と乙の字と取り違へたるほどの大誤謬(祟[#「祟」に白丸傍点]タタルを崇[#「崇」に白丸傍点]アガムに誤るが如き)は厳しくこれを正さざるべからず。
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