の次に
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吾《わが》孫|興邦《おきくに》はなほ乳臭《ちのか》机心《つくえごころ》失せず。かつ武芸を好める本性なれば恁《かか》る幇助《たすけ》になるべくもあらず。他《かれ》が母は人並ににじり書もすれば教へて代写させばやとやうやうに思ひかへしつ、第百七十七回の中|音音《おとね》が大茂林浜《おおもりはま》にて再生の段より代筆させて一字ごとに字を教へ一句ごとに仮名使《かなづかい》を誨《おしゆ》るに、婦人は普通の俗字だも知るは稀《まれ》にて漢字《からもじ》雅言《がげん》を知らず仮名使てにをはだにも弁《わきま》へず扁《へん》旁《つくり》すらこころ得ざるに、ただ言語《ことば》をのみもて教へて写《かか》するわが苦心はいふべうもあらず。況《まい》て教《おしえ》を承《うけ》て写《か》く者は夢路を辿《たど》る心地して困じて果はうち泣くめり云々
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など書ける、この文昔はただ余所《よそ》のあはれとのみ見しが今は一々身にしみて我上《わがうえ》の事となり了んぬ。されど馬琴は年老い功成り今まさに『八犬伝』の完結を急ぎつつあるなり。我身のいまだ発端をも書きあへず早く已《すで
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