る様が面白いので病牀からながめて楽しんで居る。水鉢を置いてまだ手を引かぬ内にヒワが一番先に下りて浴びる。浴び様も一番上手だ。ヒワが浴びるのは勢ひが善いので目《ま》たたく間に鉢の水を半分位羽ではたき散らしてしまふ。そこで外の鳥は残りの乏しい水で順々に浴びなくてはならぬやうになる。それを予防するつもりでもあるまいが後にはヒワが先づ浴びようとするとキンバラが二羽で下りて来てヒワを追ひ出し二羽並んで浴びてしまふ。その後でジヤガタラ雀が浴びる。キンカ鳥も浴びる。カナリヤも浴びる。暫《しばら》くは水鉢のほとりには先番後番と鳥が詰めかけて居る。浴びてすんだ奴は皆高いとまり木にとまつて頻《しき》りに羽ばたきして居る。その様が実に愉快さうに見える。考へて見ると自分が湯に入る事が出来ぬやうになつてからもう五年になる。[#地から2字上げ](三月七日)

 余は漢字を知る者に非ず。知らざるが故に今更に誤字に気のつきしほどの事なれば余の言ふ所必ず誤あらんとあやぶみしが果してある人より教をたまはりたり。因《よ》つて正誤かたがたこれを載せ併《あわ》せてその好意を謝す。
[#ここから1字下げ]
(略)※[#「懶−りっしんべん」、第3水準1−92−26]※[#さんずい+懶のつくり、第3水準1−87−30]獺懶等の旁《つくり》は負なり頁《おおがい》にあらずとせられ候へども負にあらず※[#「刀/貝」、52−4]の字にて貝の上は刀に候勝負の負とは少しく異なり候右等の字は剌《らつ》より音生じ候また※[#「聖」の「王」に代えて「壬」の下の横棒が長いもの、52−5]の下は壬にあらず※[#「壬」の下の横棒が長いもの、52−5](音テイ)に候※[#「呈」の「王」に代えて「壬」の下の横棒が長いもの、52−6]※[#「望」の「王」に代えて「壬」の下の横棒が長いもの、52−6]等皆同様に御座候右些細の事に候へども気付たるまま(一老人|投《とうず》)
[#ここで字下げ終わり]
 またある人より
[#ここから1字下げ]
(略)菩薩《ぼさつ》薩摩の薩は字原|薛《せつ》なり博愛堂『集古印譜』に薩摩国印は薛……とあり訳経師《やっきょうし》が仮釈《かしゃく》にて薛に二点添付したるを元明《げんみん》より産の字に作り字典は薩としあるなり唐には決して産に書せず云々
[#ここで字下げ終わり]
 右の誤は字典にもあり麑島《かごしま》人も仏教家
前へ 次へ
全98ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング