。但かかる事は数十年慣れ来りし誤を一朝に改めんとすれば非常に困難を覚ゆれど初め教へらるる時に正しき字を教へこまるれば何の困難もなき事なり。小学校の先生たちなるべく正しき字を教へたまへ。[#地から2字上げ](三月四日)

 誤りやすき字左に
 段鍛[#「段鍛」に白丸傍点]は「たん」にして假蝦鰕霞遐は「か」なり。段と※[#「蝦−虫」、第4水準2−3−64]《か》と扁《へん》もつくりも異なるを混同して書く人多し。
 蒹葭[#「蒹葭」に白丸傍点]は「あし」「よし」の類なるべし。葭簀張《よしずばり》の葭も同字なり。しかるに近頃葮[#「葮」に白三角傍点]の字を用ゐる人あり。後者は字引に「むくげ」とあるはたしかならねど「よし」にあらざるは勿論なり。
「おき」は沖[#「沖」に白丸傍点]なり。しかるにこの頃は二水《にすい》の冲[#「冲」に白三角傍点]の字を用ゐる人多し。両字とも水深の意なきにあらねど我邦《わがくに》にて「おき」の意に用ゐるは字義より来るに非ずしてむしろ水[#「水」に白丸傍点]の真中[#「中」に白丸傍点]といふ字の組立より来るに非《あらざ》るか。
 汽[#「汽」に白三角傍点]車の汽を※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6][#「※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]」に白三角傍点]と書く人多し。字引に汽は水气《すいき》也とあるを福沢翁の見つけ出して訳字に当てたるなりと。※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]の字もあれど意義異なり。
 四[#「四」に白丸傍点]の字の中は片仮名のルの字の如く右へ曲ぐるなり。讀贖[#「讀贖」に白丸傍点]などのつくりの中の処も四を書くなり。されど賣[#「賣」に白丸傍点]の字の中の処は四の字に非ず。右へ曲ぐる事なく真直に引くなり。いささかの事故どうでもよけれどただ讀(とく)のつくりが賣(ばい)の字に非ることを知るべし。
 奇[#「奇」に白丸傍点]の字の上の処は大の字なり。奇の字を字引で引かんとならば大の部を見ざるべからず。されど立の字の如く書くも古き代《よ》よりの事なるべし。
 逢蓬峯[#「逢蓬峯」に白丸傍点]は「ほう」にして降絳[#「降絳」に白丸傍点]は「こう」なり。終りの処少し違へり。
 ※[#「女+※[#「臣」の「コ」に代えて「口」、第4水準2−85−54]」、49−15][#「※[#「女+※[#「臣」の「コ」に代えて
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