《かぜん》。第五子は碧梧桐《へきごとう》。黄塔三子あり皆幼。[#地から2字上げ](二月七日)

 雑誌を見る時我読む部分と読まざる部分とあり。我読まざる部分は小説、新体詩、歌、俳句、文学の批評、政治上の議論など。我読む部分は雑録、歴史、地理、人物|月旦《げったん》、農業工業商業等の一部なり。新体詩は四句ほど読み、詩は圏点《けんてん》の多きを一首読み、随筆は二、三節読みて出来加減をためす事あり。俳句は一句か二句試みに読む事もあれど歌は読みて見んと思ひたる事もあらず。[#地から2字上げ](二月八日)

 近日我|貧厨《ひんちゅう》をにぎはしたる諸国の名物は何々ぞ。大阪の天王寺|蕪《かぶら》、函館の赤蕪《あかかぶら》、秋田のはたはた魚、土佐のザボン及び柑《かん》類、越後《えちご》の鮭《さけ》の粕漬《かすづけ》、足柄《あしがら》の唐黍《とうきび》餅、五十鈴《いすず》川の沙魚《はぜ》、山形ののし梅、青森の林檎羊羹《りんごようかん》、越中《えっちゅう》の干柿《ほしがき》、伊予の柚柑《ゆずかん》、備前《びぜん》の沙魚、伊予の緋《ひ》の蕪及び絹皮ザボン、大阪のおこし、京都の八橋煎餅《やつはしせんべい》、上州《じょうしゅう》の干饂飩《ほしうどん》、野州《やしゅう》の葱《ねぎ》、三河《みかわ》の魚煎餅、石見《いわみ》の鮎《あゆ》の卵、大阪の奈良漬、駿州《すんしゅう》の蜜柑《みかん》、仙台の鯛《たい》の粕漬、伊予の鯛の粕漬、神戸の牛のミソ漬、下総《しもうさ》の雉《きじ》、甲州の月《つき》の雫《しずく》、伊勢の蛤《はまぐり》、大阪の白味噌、大徳寺《だいとくじ》の法論味噌、薩摩《さつま》の薩摩芋、北海道の林檎、熊本の飴《あめ》、横須賀の水飴、北海道の※[#「魚+而」、第3水準1−94−40]《はららご》、そのほかアメリカの蜜柑とかいふはいと珍しき者なりき。[#地から2字上げ](二月九日)

 十返舎一九《じっぺんしゃいっく》の『金草鞋《かねのわらじ》』といふ絵草子二十四冊ほどあり。こは三都をはじめ六十余州の名所霊蹟巡覧記ともいふべき仕組なれど作者の知らぬ処を善きほどに書きなしたる者なれば実際を写し出さぬは勿論《もちろん》、驚くべき誤も多かるが如《ごと》し。試みに四国八十八ヶ所|廻《めぐ》りの部を見るに岩屋山海岸寺といふ札所の図あり、その図|断崖《だんがい》の上に伽藍《がらん》聳《そび》えその
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