げにあはれなり。

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きんつばの行燈暗き夜寒かな
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 淡路町に来れば古画を掛け古書を並べて此たぐひの店こゝの名物なり。我もいくたびかこゝに佇み幾冊 古書を得たりし処さすがに昔忍ばる。

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贋筆を掛けて灯ともす夜寒かな
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 講武所を横に曲るに角の鮓屋には人四五人も群れて少し横の方の柿店は戸板の上に僅ばかりの柿を並べたる婆の顔寒さうなり。

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柿店の前を過ぎ行く夜寒かな
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 御成道は車少く、三橋渡れば左右の飲食店建物いかめしけれど内は淋し気に見ゆ。

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三階の灯を消しに行く夜寒かな
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 上野に上る。風無けれど咽喉ひや/\と覚えて心地善からず。

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電気燈明るき山の夜寒かな
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 暗き森の中をうつら/\車に揺られて少し発熱の気味なり。新坂上

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見下せば灯の無き町の夜寒かな
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 新坂を下れば交番所の巡査今交代と
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