三〕
[#底本ではここに「編注」あり。「莫囂圓隣云々の歌」とは「熟田津に」の次にある歌、という内容]

      (四)

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   中皇命往于紀伊温泉之時御歌
君が代もわが代も知らむ磐代の岡の草根をいざ結びてな
[#ここで字下げ終わり]
 上二句は磐といふ字にかゝりていへるにて、磐は永久の者なれば君が代をもわが代をも知る筈なりといへるなり。磐を擬人にしたるなり。併し其の磐は地名なれば地名にあやかりて其處の草をむすぶといふなるべし。草を結ぶとか木を結ぶとかいふ事此頃の習慣なりと見ゆ。
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吾勢子は假廬つくらす萱なくば小松が下の萱を刈らさね
[#ここで字下げ終わり]
「萱なくば」に就きて議論あり。「刈りたる萱なくば」と見るが穩當ならん。「小松が下」は別に意味あるにあらず。意味無き此一句あるため一首活きたり。
[#ここから4字下げ]
わがほりし野島は見せつ底深き阿胡根の浦の珠ぞひろはぬ
[#ここで字下げ終わり]
 第二句一に「見しを」とあり。野島は既に見たれど阿胡根の浦はまだ見ずとの意にや。「底深き」は前の「小松が下」と同じく無意味の裝飾的の語なれど「小松が下」の自然なるに如かず。併しここも惡きに非ず。以上三首皆面白し。
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   三山歌
かぐ山はうねびをゝしと、耳梨とあひあらそひき、神代よりかくなるらし、いにしへもしかなれこそ、うつせみも妻をあらそふらしき
[#ここで字下げ終わり]
 天智御製なり。男山女山といふ事に就きて即ち初二句の解釋に就きて論ありたれどそは如何やうにもあるべし。戀の爭ひといはゞ俗にも聞ゆべきを、山の爭ひを比喩に引きしために氣高く聞ゆ。結末七言二句の代りに十言一句を置く、亦一法なり。「こそ」の係「らしき」の結なり。
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   反歌
かぐ山と耳梨山とあひし時立ちて見に來し伊奈美國原
[#ここで字下げ終わり]
 出雲の阿菩《あぼ》の大神が三山の爭ひを諫めんために播磨の印南郡に到りしが爭ひやみたりと聞きて行かでやみきとなり。反歌には戀の意無し。
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わだつみの豐旗雲に入日さしこよひの月夜あきらけくこそ
[#ここで字下げ終わり]
 此歌、題を逸す。雲が旗のやうに靡きたるを見て旗雲といふ熟語をこしらえ、それが大きいから豐といふ形容を添へて豐旗雲といふ熟語を
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