て居たと思つたら、今度或る雑誌に墓といふ題が出たので其材料を捜しに来たのであつた。何でも今の奴は只は来ないよ。たまに只※[#二の字点、1−2−22]来た奴があると石塔をころがしたりしやアがる。始末にいけない。オー寒いぞ/\。寒いツてもう粟粒の出来る皮も無しサ。身の毛のよだつといふ身の毛も無いのだが、所謂骨にしみるといふやつだネ。馬鹿に寒い。オヤ/\馬鹿に寒いと思つたら、あばら骨に月がさして居らア。
○僕が死んだら道端か原の真中に葬つて土饅頭を築いて野茨を植ゑてもらひたい。石を建てるのはいやだが已む無くば沢庵石のやうなごろ/\した白い石を三つか四つかころがして置くばかりにしてもらはう。若しそれも出来なければ円形か四角か六角かにきつぱり切つた石を建てゝもらひたい。彼自然石といふ薄ツぺらな石に字の沢山彫つてあるのは大々嫌ひだ。石を建てゝも碑文だの碑銘だのいふは全く御免蒙りたい。句や歌を彫る事は七里ケツパイいやだ。若し名前でも彫るならなるべく字数を少くして悉く篆字にしてもらひたい。楷書いや。仮名は猶更。
底本:「日本の名随筆55 葬」作品社
1987(昭和62)年5月25日第1刷発
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