にながめ、書に倦《う》みたる春の日、文作りなづみし秋の夜半、ながめながめてつくづくと愛想尽きたる今、忽ち破《や》れ団扇《うちわ》と共に汝を捨てんの心|切《せつ》なり。世に用あるものは形の美醜を問はず、とぢ蓋《ぶた》もわれ鍋に用ゐられ悪女も終には縁づく時あり。汝無用の長物にしてしかも人に憎まれくらさんはなかなかに罪深きわざなめるを、我|固《もと》より汝に恨《うらみ》なし、今汝を捨つるとも汝かまへて我を恨むべからず。捨てんか捨てんか、捨てたりともしろかねの猫にあらねば門前の童子もよも拾はじ。売らんか売らんか、売りたりとも金箔《きんぱく》の兀《は》げたる羽子板にも劣りていたづらに屑屋《くずや》に踏《ふ》み倒されん。如《し》かず椽先の飛石に投げうつて昔に返る粉《こ》な微塵《みじん》、宿業全く終りて永く三界《さんがい》の輪廻《りんね》を免れんには。汝もし霊あらば庭下駄の片足を穿《うが》ちて疾《と》く西に帰れ。
[#ここから4字下げ]
蚯蚓《みみず》鳴くや土の達磨《だるま》はもとの土
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]〔『ホトトギス』第二巻第一号 明治31[#「31」は縦中横]・10[
前へ
次へ
全3ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング