山野に※[#「彳+淌のつくり」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]せよ、林間に遊猟せよと勧めらるゝ人々も多かれども、そはたま/\には心慰む方もあらん。毎日々々かくては送られず。固より天性発明なる人(genius アル人)即ち天稟の聖人ならば山野に遊び江湖に泛びて高尚深遠の哲学を発明する所多かるべけれど、頑愚痴迂なる一寒性、いかんぞ古人の遺書によらずして秋毫の屁理窟だもひねくり出すことを得んや。若し強ひて自分をして廃学なさしめば其結果如何は前論に照して明なるべし。狂たらんか、痴たらんか、将た恨を呑んで鬼たらんか。噫槿花は黄昏を知らず、※[#「虫+惠」、第4水準2−87−87]蛄は春秋を知らず。五尺の人間無限の天地に生れて生命の長短を論ず、強者弱者を侮り寿者夭者を笑ふ、豈蟷螂の蟋蟀を侮り寒氷の泡沫を笑ふに異ならんや。
 客問ふて曰く、然らば君をして廃学せしむる方これなきか。曰く、有り。只々行ひ難きのみ。何ぞや。曰く、我に鉅万の財を与へて思ふ存分に消費せしむるのみ。客瞠若たり。我曰く、誰か我に鉅万の財を与ふる者ぞ。天を仰いで呵々として大笑す。
 客又曰く、君何
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