東西南北序
正岡子規
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)口を衝《つ》いて
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から8字上げ]東京上根岸僑居に於て、
−−
鐵幹、歌を作らず。しかも、鐵幹が口を衝《つ》いて發するもの、皆歌を成す。其短歌若干首、之を敲《たた》けば、聲、釣鐘の如し。世人曰く、不吉の聲なりと。鐵幹自ら以て、大聲は俚耳《りじ》に入らずと爲す。其長歌若干首、之を誦するに、壯士劍に舞へば、風、木葉を振ふが如し。世人曰く、不祥の曲なりと。鐵幹自ら以て、世人皆醉へり、吾獨り醒めたりと爲す。鐵幹自ら恃《たの》む所の、何ぞ夫れ堅にして頑なるや。余も亦、破れたる鐘を撃ち、錆びたる長刀を揮うて舞はむと欲する者。只其力足らずして、空しく鐵幹に先鞭を着けられたるを恨む。今や鐵幹、其長短歌を集めて一卷と爲し、東西南北といふ。余に序を索《もと》む。余、鐵幹を見る、日猶淺し。之に序する、余が任にあらず。然れども、其歌を知るは、今日に始まるに非ず。其歌集に序する、亦何ぞ妨げむ。乃《すなは》ち序をつくる。
[#ここから3字下げ]
明治二十九年七
次へ
全2ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング