ふたので、黄な蝶も笑ひながら、あちらの木立を指して飛んで往た。暫くして白い蝶は後を追ふて産土神の鳥居迄来て、あたりを見廻して居ると向ふの木の間に、ちらと物影が見えたやうであつた。「屹度あの榎のうろの中へ隠れたんだよト独りつぶやきながら、榎の蔭迄来ると、羽音を静めて、あべこべにおどかしてやらうと思ふて、うろへはいるや否や、大きな声で、「とートいふた。すると、神鳴のやうな声で、「誰だよ、出し抜けに大きな声をしやアがるのはトいふのを見ると目に余るやうな山女郎であつた。白い蝶は肝を潰して真青になつて後も見ずに逃げ出したが、空を飛んでは追ひつかれると思ふて、成るたけ刺の多い草むらの間をくゞりくゞり逃げた。黄な蝶は薊の葉裏に隠れて居たが、白い蝶の事ありげにあわてゝ飛んで往くのを見て、後から追ひかけた。「オーイ/\トいふて呼ぶといよ/\あわてゝ逃げるやうなので、「あたいだよあたいだよト続け様に呼んだら、やう/\聞えたか後ふり向いて息をはづませて居る。「どうしたのだよトいふと、「なに、山女郎が追つかけると思ふてト前の一伍一什を話した。「それではあの化物榎なの。あんな処へあたいが隠れて居ると思ふたの。化
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