ぎ》芒《すすき》のさかりにぞあるべき。今年は去年に比ぶるに萩の勢ひ強く夏の初の枝ぶりさへいたくはびこりて末頼もしく見えぬ。葉の色さへ去年の黄ばみたるには似ず緑いと濃し。空晴れたる日は椅子を其ほとりに据ゑさせ人に扶《たす》けられてやうやく其椅子にたどりつき、気晴しがてら萩の芽につきたるちいさき虫を取りしことも一度二度にはあらず。桔梗撫子は実となり朝顔は花の稍少くなりし八月の末より待ちに待ちし萩は一つ二つ綻《ほころ》び初たり。飛び立つばかりの嬉しさに指を折りて翌は四、あさつては八、十日目には千にやなるらんと思ひ設けし程こそあれある夜野分の風はげしく吹き出でぬ。安からぬ夢を結びてあくる朝、日たけて眠より覚むれば庭になにやらのゝしる声す。心もとなく這ひ出でゝ何ぞと問ふ。今迄さしもに茂りたる萩の枝大方折れしをれたるなりけり。ひたと胸つぶれていかにせばやと思へどせん無し。斯くと知りせば枝毎に杖立てゝ置かましをなど悔ゆるもおろかなりや。瓦吹き飛ばしたる去年の野分だに斯うはならざりしを今年の風は萩のために方角や悪かりけん。此日は晴れわたりてやゝ秋気を覚え初めしが余は例の椅子を庭に据ゑさせ、バケツとかな
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