も二つはもたぬなりけり
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その貧乏さ加減、我らにも覚えのあることなり。
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ひた土に筵《むしろ》しきて、つねに机すゑおくちひさき伏屋《ふせや》のうちに、竹|生《お》いでて長うのびたりけるをそのままにしおきて
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壁くぐる竹に肩する窓のうちみじろくたびにかれもえだ振る
膝いるるばかりもあらぬ草屋を竹にとられて身をすぼめをり
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明治に生れたる我らはかくまで貧しくなられ得べくもあらず。(「草屋」を「草の屋」と読ませ「草花」を「草の花」と読まする例、集中に少からず。漢語にはあらず)
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銭乏しかりける時
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米の泉なほたらずけり歌をよみ文をつくりて売りありけども
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彼が米代を儲《もう》け出す方法はこの歌によりてやや推すべし。(「泉」は「ぜに」と読むべし)
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ある日、多田氏の平生窟より人おこせ、おのが庵《いお》の壁の頽《くず》れかかれるをつくろはす来つる男のこまめやかなる者にて、このわたりはさておけよかめりとおのがいふところどころをもゆるしなう、机もなにもうばひとりてこなたかなたへうつしやる、おのれは盗人の入《いり》たらん夜のここちしてうろたへつつ、かたへなるところに身をちひさくなしてこのをの子のありさま見をる、我ながらをかしさねんじあへて
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あるじをもここにかしこに追たてて壁ぬるをのこ屋中塗りめぐる
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家の狭さと、あるじの無頓着《むとんちゃく》さとはこの言葉書《ことばがき》の中にあらわれて、その人その光景目前に見るがごとし。
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おのがすみかあまたたび所うつりかへけれど、いづこもいづこも家に井なきところのみ、妻して水|汲《く》みはこばする事もかきかぞふれば二十年あまりの年をぞへにきける、あはれ今はめもやうやう老《おい》にたれば、いつまでかかくてあらすべきとて、貧き中にもおもひわづらはるるあまり、からうじて井ほらせけるにいときよき水あふれ出《い》づ、さくもてくみとらるべきばかりおほうあるぞいとうれしき、いつばかりなりけむ□「しほならであさなゆふなに汲む水もからき世なりとぬらす袖《そで》かな」と、そぞろごといひけることのありしか、今は
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